What’s M&A? 事業承継を解説。基本知識を身に付けてトラブルを防ぐ

事業承継とは何か|事業承継を成功させるために必要なこと

会社の事業をいかにして次世代へ引き継ぐかは、特に中小企業では大きな課題です。事業承継の基本知識を身に付けて、トラブルが起こらないように備えましょう。

 

◆事業承継について

事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。
後継者を誰にするかは大きな経営課題であり、選択肢としては、子どもなどの親族、従業員、そしてM&Aによる第三者への承継が考えられます。
 
事業承継において、具体的に引き継がれるものが何かといえば、会社の「ヒト」「モノ」「カネ」といった経営資源です。
 
この内、「モノ」「カネ」を後継者に承継することを総称して「物的」事業承継と呼ばれることがあります。
これは現社長が所有している会社の株式や、会社が利用する土地・建物、設備、運転資金といった財産の承継を指す言葉です。
 
一方、「ヒト」の承継は「人的」事業承継と呼ばれ、社長という組織内での役職・役割と、会社の経営権を、次の社長となる後継者に託すことをいいます。
ヒトに付随した、経営理念や信用力、独自のノウハウといった目に見えない経営資源を後継者に引き継ぐことも広い意味で「人的」事業承継の中に含まれます。
 
【事業承継で継ぐもの】
事業承継【事業承継で継ぐもの】

 

◆事業承継を誰にするか~承継先ごとのメリット・デメリット~

事業承継を誰にするかによって、「親族内承継」「親族外承継(MBO等)」「M&A」と大きく3種類に分かれます。
いずれに事業承継するかについて、意思決定の流れは下記のようになります。
 
【事業承継検討のフローチャート】
事業承継【事業承継検討のフローチャート】

また、それぞれのメリット・デメリットは下表のようにまとめることができます。
 
【承継先ごとのメリット・デメリット】
事業承継【承継先ごとのメリット・デメリット】

 
⇒M&Aで成功する秘訣とは!M&Aの基礎知識

 

◆事業承継は現在の経営者が率先して行動する

誰に事業承継するのかが固まってきたら、必要な手続きの流れとポイントを押えた事業承継計画を立てる必要があります。
事業承継計画の作成手順は以下の流れで進めます。
 
① 次世代に向けた改善点、方向性の検討
・現在の経営状況、過去の実績を調査・分析(財務分析)
・将来に向けた改善点や方向性を検討
 
② 環境変化の予測と対応策・課題の検討
・経営環境の分析と変化の予測(PEST分析)
・重点課題を検討し、対応策を打ち出す
 
③ 中長期ビジョンと目標設定
・中長期的な方向性、経営ビジョンを検討
・実現するための会社のあるべき姿をイメージ
 
④ 円滑な事業承継に向けた課題の整理
・後継者を中心とした新経営体制(経営チーム)の検討
・移行までの具体的課題を整理
 
⑤ 事業承継計画の作成
・具体的な数値目標を盛り込んだ中長期的な経営計画を作成
・事業承継対策の実施時期などを盛り込み、「事業承継計画」を作成

 

◆事業承継における課題と事前の取り組み

「物的」事業承継と「人的」事業承継の2つの側面から、問題となる事項を洗い出し、具体的な対策を検討していきます。

 

(「物的」事業承継における対策の検討)

「物的」事業承継の計画においては、自社株式にかかわる対策が重要になってきます。
経営者の持株数と、それ以外に誰がどれだけの持分を保有しているのかを調べ、一覧にして整理しておく必要があります。
その後、検討するべきが「株主対策」と「株価対策」です。

 
□ 株主対策
後継者に必要な議決権割合はどれくらいかといえば、後継者以外の株主が後継者に協力的かどうかなど、会社ごとの状況に応じて異なるため、弁護士や司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。
 
過半数である51%の議決権があれば、取締役・監査役の選任、取締役の解任、剰余金の配当などについて、株主総会の普通決議事項を可決させることができます。
さらに、3分の2以上にあたる67%の議決権を保有すれば、定款変更、合併・分割などの株主総会の特別決議事項を可決させることができます。
 
【議決権保有割合と決議・権利の内容】
事業承継【議決権保有割合と決議・権利の内容】

 
□ 株価対策
株価対策にもさまざまな方法があり、調達資金、税金、相続に与える影響も異なります。
税理士などの専門家に相談し、いくつかの方法でシミュレーションを行った上で、それぞれの会社に合った最適の方法を検討することが重要です。
ただし、株価引下げを意識し過ぎるあまり、経営を悪化させることがあるので注意が必要です。
 
具体的には、下記のようなケースです。
・業績を悪化させる合併・分社
事業ごとの業績管理の不能、利益増加の裏付けがない人件費の増加、現場の混乱などのマイナスの影響が懸念されます。
・投資利回りを無視した資産の購入
資産の購入額に対する利益やキャッシュフローの割合(投資利回り)が低い場合、会社の業績に与える悪影響が大きくなります。
・会社の財務内容に比べて過大な役員退職金の支給
税務上は過大でないと判定される役員退職金であっても、会社の財務内容に比べると過大になる場合があります。

(「人的」事業承継における対策の検討)

「人的」事業承継における、社内体制の見直しや後継者の育成には時間がかかるので、それらも考慮に入れた上で、余裕を持って計画を立てるべきでしょう。
現社長の仕事内容や社内での役割などをあらかじめ「見える化」する一方で、後継者候補とはしっかりとコミュニケーションをとり、意思疎通できていることが重要です。
 
【事業承継の課題と事前の取組み】
事業承継【事業承継の課題と事前の取組み】

 

◆自社株式承継の具体的な方法

(① 贈与)

生前贈与は、相続・遺贈による事業承継と比較すると、タイミングを見計らって現社長の意志で実行できるところにメリットがあります。
あらかじめ贈与しておくことによって現社長の相続財産も減少します(相続発生前3年以内に贈与した資産については、相続財産に持ち戻されて相続税の計算がされ行われます)。
ただし、一般的には承継する財産の評価額あたりの贈与税の税率は相続税の税率よりも高くなります。
 
□ 暦年課税贈与
・基礎控除(非課税枠)は受贈者一1人につき年間110万円
・基礎控除を超える贈与に対し超過累進税率(最高55%)の贈与税
・贈与した財産は、原則として相続税の課税対象にならない
事業承継【暦年課税贈与】
 
□ 相続時精算課税贈与
・贈与者一1人につき2,500万円の非課税枠
・非課税枠を超える贈与に対し一律20%の贈与税
・60歳以上の父母(祖父母)から、20歳以上の子(あるいは孫)に対する贈与が対象
・贈与した財産は相続税の課税価格に含めて相続税額を計算
事業承継【相続時精算課税贈与】
 
□ 非上場株式等についての贈与税の納税猶予及び免除の特例
・議決権株式総数の3分の2に達するまでの部分について、贈与税の納税が猶予
・贈与者が死亡すれば猶予されていた贈与税が免除
・会社、贈与者、受贈者に対する適用要件が多く、手続きが煩雑
事業承継【贈与税の納税猶予及び免除の特例】

 
⇒自社株式を後継者に承継させる方法(相続・遺贈、贈与)

(② 譲渡(売却))

後継者に自社株式を売却する方法では、現社長は現金を手にすることができ、売却された自社株式は相続財産から外れるので、その後の値上がりを心配する必要がありません。また、税率は譲渡益の大きさに関わらず20.315%と一定です。
売買取引なので後継者は自社株式を購入するための資金調達が必要です。
 
□ 持株会社への売却
・譲渡益に対して一律20.315%の譲渡所得税など
・譲渡価額は法人税法上の時価が基準
・相続税評価額の計算上、含み益による株価の上昇を抑制できる
・会社の収益力を担保にして、買取資金を調達できる
事業承継【持株会社への売却】
 
□ 従業員持株会への売却
・譲渡益に対して一律20.315%の譲渡所得税など
・譲渡価額は配当還元価額が基準
・配当を通じて従業員に利益を還元できる
・安定株主を確保し、後継者が承継する際の資金負担が軽減される
事業承継【従業員持株会への売却】

 
⇒自社株式を後継者に承継させる方法(売却)

 

◆後継者の教育

(後継者が身に付けておきたい6つの能力)

後継者の育成は、5年~10年の中長期スパンで取り組まなくてはならない重要な経営課題です。
後継者が身に付けておきたい能力として、具体的には以下の6つがあげられます。
 
① 経営基礎スキル・財務リテラシー
② 現場理解、数字から現場で起きていることを推測する力
③ 社内外の人脈
 
外部研修による基本的な知識の獲得と併せて、自社事業のコアとなる部門での業務経験を積むことが現場理解につながり、人脈作りでも効力を発揮します。
現社長が持っている社外ネットワークを継ぐために、各種会合等にも積極的に後継者を連れて行く活動も必要な教育の一つです。
 
④ リーダーシップ(部下からの信頼)
⑤ 経営者としての志(欲)
⑥ 先代の経営への理解・共感・感謝
 
「リーダーシップ(部下からの信頼)」そして「経営者としての志(欲)」については、後天的に育成・強化しづらいものです。
そのため、後継者としての素養という意味では、これらを重視するべきかもしれません。
最も重要なのが「先代の経営への理解・共感・感謝」であり、これを忘れてしまうと数年後には先代が返り咲く自体になり、事業承継が停滞してしまいます。
 

(後継者を支えるチーム作り)

現社長が担っていた役割を、全て後継者自身が引き継ぐことは不可能と考えた方がいいでしょう。
次世代では、各々の強み・専門性を有した経営幹部とともにチーム経営をしていくことを前提に準備を進めていく必要があります。
 
【チーム経営への移行イメージ】
事業承継【チーム経営への移行イメージ】

(中期事業計画の策定)

後継者教育の総仕上げが、次期社長を中心とした次世代の経営チームによる中期事業計画の策定です。
計画そのものの妥当性・質ももちろん重要ですが、それ以上にこの計画を作成するプロセスの中で当事者意識を醸成することが大きな目的といえます。

(「人的」事業承継のゴールとは)

中期事業計画の策定をクリアできれば、現社長も「自分がいなくなっても何とかなりそう」と、不安が軽減されることになります。
それが「人的」事業承継のゴールともいえるでしょう。
 
⇒事業承継の具体的な手続きの流れ

 

◆事業承継を成功させるために必要なこと

事業承継を成功させるためには、現社長は下記の事前準備が必要になってきます。
 

□ 既存事業の収益力強化

後継者の育成が進んだとしても、承継直後は以前のようにいかないことも少なくありません。
その際に、土台となる収益力さえあれば、そのロスを補うこともできます。
 

□ 見える化(KPI、事業計画策定)

承継期間中に「社長の頭の中の見える化」を進めておくことが重要です。
特に、経営にとっての重要指標(KPI)の設定、それを把握するためのシステム化、承継までの期間の事業計画策定は行っておきたいところです。
 

□ 同年代の幹部の花道づくり

古参幹部が改革の抵抗勢力となってしまうようであれば、現社長は、自身の在任中に現経営幹部と話をして、現社長が退任する前か同時に退職してもらえるよう花道を作っておきましょう。
 

□ 残すべき会社の理念・魂の明文化

事業承継後の会社の在り方については、基本的には後継者に一任するべきでしょう。
しかし、会社の根幹部分である「なぜ、この会社を立ち上げたのか」「何のために存在する企業であって欲しいか」という経営理念は次世代にも承継していくべき内容です。

 

◆まとめ

事業承継をする先としては、親族、従業員、第三者(M&A)と選択肢がありますが、それぞれメリット・デメリットがあるため、経営環境や自社の置かれている状況も踏まえて経営判断をしなければなりません。
事業承継には、大きく「モノ」「カネ」の承継である「物的」事業承継と、「ヒト」の承継である「人的」事業承継に分けて考える必要があります。
それぞれの重要課題は、「物的」事業承継においては、自社株式をいかにして後継者に引き継ぐか、「人的」事業承継においては、後継者教育です。
現社長は、自身の業務を「見える化」して、後継者が引継げる組織体制づくりを進めていく必要があります。
一方で、後継者に求められるのは先代の経営を尊重する姿勢といえるでしょう。

 
⇒事業承継コンサルティングのサービス内容はこちら。
 
⇒後継者問題の解決と会社の再成長のため大手へ譲渡したM&A事例はこちら。

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