注目のテーマ

現状分析の重要性と分析のポイント

ポイント

人事・労務に関連する課題は様々な要因が複雑に絡み合っていることが多く、それらの要因を丁寧に紐解いて行く作業が現状分析です。実効性のある対策を立案・実行するためにも欠かすことができないプロセスといえます。企業経営にとって重要な組織・人事上の問題解決に着手するためにも、まずは自社の現状分析を実施することが改善への第一歩と考えます。

1なぜ、現状分析が重要なのか?

コンサルティングの現場にいると、時々「現状分析なんていいから、早く改善策を実行して欲しい」というお話を頂くことがあります。経営者や人事責任者の「課題は分かっているのだから、早くそれを解決する方法を知りたい」というお気持ちはよく理解できますが、適切な現状分析なくしては効果的な改善も生まれません。
現状分析の重要性について、「病気の診断」に例えて説明します。例えば、指先を切って血が出ている状態であれば症状と対応策は明白です。しかし、頭痛のような体の内部の痛みは、二日酔いといった軽度な原因から脳梗塞といった重度な原因まで様々な原因が考えられます。企業経営における様々な課題の中でも、特に人事・労務に関連する課題は、表面的には「長時間残業」という症状が出ていたとしても、その根っこには「基本給の低さによる生活残業の常態化」「長時間働く人間が評価される風土」「上司より先に帰ると怒られるというマネジメント」「今日依頼を受けて明日の朝までには返すようなスピード感を強みとしている営業スタイル」等、様々な要因があり、かつ、それらの要因が複雑に絡み合っていることが多く見受けられます。それらの要因を丁寧に紐解いていく作業こそが現状分析であり、だからこそ、非常に重要なプロセスであるといえます。

また、現状分析には、そのプロセスを通じて、改善の実効性を高める2つの効果があります。
一つは、経営者を含めた関係者間で危機感を共有できることです。例えば、「5年後に人件費が上がる」という問題がある会社において、そのこと自体は経営陣で共通認識となっていたとしても、それが「現在より5%上がる」と認識しているのか、「現在より30%上がる」と認識しているのかでは大きな違いがあり、この問題に対する捉え方もかけ離れたものになってしまいます。現状分析においては、この様な定性的には共有化されている(加えて、認識にばらつきが生じている)問題について、定量的なデータをもって認識の共通化を行います。その過程を通じて、関係者間において課題の認識と危機感のレベルを揃えられるため、実施していく改善策に対して納得感が得られやすくなります。

もう一つの効果は、複雑に絡まった糸(問題)を解き道筋が見えることで、改善策を前に進めるためのモチベーションを高めることができることです。今後求められる人事・労務体制を目指そうとすると、一時的な人件費の上昇や働き方の改善、時にはビジネスモデルそのものの見直し等、経営者にとって非常に重いテーマに取り組んでいかなければならないことがあります。その際に、自社で実行できる「現実的なロードマップを描けるか」が非常に重要な分岐点であり、それが描けない状況では、確実に目の前で生じる苦労や心配が先に立ってしまい、改善の途につけない状態に陥ってしまいます。丁寧な現状分析は、改善に向けた道筋をつけることでもあり、関係者の中に「これならやれそうだ」という空気を生み出す効果があります。

2現状分析の切り口とポイント

現状分析の切り口としては図表1の項目が挙げられます。

図表1 現状分析の切り口
テーマ
分析の切り口
(1)事業分析
  • ビジネスモデル
  • 経営理念
  • 人材マネジメント・ポリシー
  • 市場環境
(2)基礎分析
  • 人員構成(年代、役職、契約形態等)
  • 組織体制
  • 採用・退職者数推移
(3)人事制度分析
  • 等級構成・等級定義
  • 評価項目・評価フロー
  • 年収水準、賃金カーブ
  • 報酬構成比率
  • 諸手当の支給要件と支給実態
  • 退職金モデル
  • 人件費シミュレーション
(4)労務分析
  • 規程類の整備状況
  • 36協定等の労使協定の運用状況
  • 労務管理体制(労働時間の把握・管理)
  • 残業代の支払状況
(5)社員意識調査
  • 就業満足度
  • 就業満足度に影響を与えている要因
(1)事業分析

事業分析においては、自社のビジネス環境を俯瞰して、現在の強みと課題を整理することから始めます。ここで重要なのは現在だけでなく、将来的な環境変化を想像したときに、現在の強みは維持できるのか、将来どのような課題が生じ得るのかを検討することです。その上で「今後どういう人材を求めていくのか」「社員にどういう働き方を求めたいのか」を把握することが重要なポイントであり、事業分析を通じての課題認識がその後の分析の基準となります。

(2)基礎分析

基礎分析では、特に、年代ピラミッドの把握が重要になります。仮に「平均年齢が40歳」だったとしても、「40歳代 が極端に多い状態」なのか「20歳代と60歳代が多く、二極化している状態」なのか、それとも「各年代がバランス良くいる状態」なのかでは、今後起こりうる課題が全く異なってきます。

(3)人事制度分析

人事制度分析においては、①求めたい働き方と人事制度が乖離していないか、②規定されていることと運用が乖離していないか、③実際のところ報酬(賃金)の決定に影響を与えている要素(年齢・勤続年数・評価等)は何かを中心に把握します。
創業社長が健在である会社では、人事制度が形骸化しており、社長の頭の中にあることがそのまま運用の実態となっていることが多々あります。また、現行の人事制度を人事部門だけで策定した会社では、人事制度に対する現場の理解や共感が低いため「人事部は色々考えて成果主義やプロセス評価制度を入れたが、結局は年齢のみが報酬に直結している」という不満につながっていることもあります。
人事制度分析というと、人事制度(等級制度・評価制度・報酬制度)の内容を把握して、制度そのものの不具合を見つけることと連想しがちですが、「経営が求めること」「人事制度で定められていること」「実際に運用されていること」の3つの視点からそれぞれのギャップを把握することが重要になります。

(4)労務分析

労務分析では、法令に適合した規定と運用になっているかが重要なポイントです。労働関連法は、数年ごとに大小様々な改定があるため、規程が追いついていないことが多々見受けられます。経営や財務への影響度は様々ですが、コンプライアンスの観点からも定期的なチェックとメンテナンスが必要です。また、近年は、労働環境改善に対する国の取り組みが強化されており、36協定の締結と遵守が一層強く求められています。中小中堅企業においては、実態残業時間の把握すらできてないケースも多く、集計残業時間と実際に支払っている残業代との整合性の確認も含めて、労務管理体制が整備できているのかを改めて把握する必要があります。

(5)社員意識調査

社員意識調査は、社員のモチベーションの源泉を正しく捉えることを目的とします。調査を行うと、表面的には「賃金や人事制度への不満」が強く出ていても、就業満足度(この会社で働き続けたいか)に対しては「仕事への適応感ややりがい」「経営陣への共感」「上司に対する信頼」といった項目が最も強く関係している、という分析結果になることが多くあります。一般的に知られるように、報酬(賃金)は『衛生要因』(一定水準以下になると不満になるが、高くしたからといって満足度を高める要素にはならない)であり、会社へのコミットメントを高めるための『動機付け要因』は別のところにあることがほとんどです。そのような社員本人も自覚していない根源的な欲求を把握することが重要になります。

注目のテーマ一覧にもどる